はじめに
近年、イタリアでは医学と生体医工学の学位を同時に取得できるMedTechダブルディグリープログラムが設置されています。今回は、既に設置済みのヒュマニタス大学、ビオメディコ大学、マルケ工科大学の3大学と、学位は取得できないものの医学と工学を同時に学ぶことが出来るパヴィア大学MEETプログラムを取り上げ、それぞれのカリキュラム構成や特色を比較・解説します。ぜひ参考にしてみてください!
※本記事は2025年時点での情報を基に作成しています。詳しくは各大学の公式情報をご確認ください。
ヒュマニタス大学(Humanitas University)MEDTECプログラム
- プログラムの概要と目的: ヒュマニタス大学とミラノ工科大学(Politecnico di Milano)の協働による6年間の英語医学コースであり、イタリアで初めて設置されたMedTechプログラムとしても有名です。医療と工学を融合し、精密医療やビッグデータ、AI、ロボット手術、3Dプリンティングなど先端技術を駆使できる新時代の医師育成を目的としています。このプログラムは医師としての医学知識に加え、生体医工学の基礎能力・アプローチを習得させることで、技術革新を診療や患者ケアに応用できる人材を育てることを狙いとしています。
- カリキュラムの構成と特徴: 6年間一貫教育で、医学と工学の科目が統合されています。1~3年次はミラノ工科大学(主に第1学期)とヒュマニタス大学(第2学期)で交互に履修し、基礎科学(物理・化学・数学等)や解剖学・生理学と並行して情報工学や回路理論など工学科目も学びます。4~6年次は主にヒュマニタス大学での臨床実習やシミュレーション実習に重点が置かれますが、引き続き工学教授陣と医学教授陣が共同で指導し、医療機器やAIなど工学的視点を臨床訓練に組み込んだ授業が行われます。このように医学教育と工学教育が密接に組み合わされており、在学中に追加30ECTS(単位)の工学科目を履修することで、医学の学位に加えて生体医工学の学位取得も可能となっています。
- 入試方式・試験科目・定員: 本プログラム専用の入学試験(MEDTEC入試)が実施されます(国立大学のIMATとは異なる独自試験)。試験は英語で行われ、数学、論理、物理、化学、生物に加え技術・科学リテラシーに関する計60問の選択問題からなり、100分間で解答します。医学と工学の両分野の適性を評価する内容で、試験成績上位者から定員枠に基づき合格者が決定されます。定員は毎年合計約100名(EU出身者80名、非EU出身者20名)であり、選抜は非常に競争的です。
- 取得できる学位: 卒業時にヒュマニタス大学から医学博士(MD、医学修士に相当)の学位が授与されます。それに加え、本プログラムで要求される工学の追加単位を全て取得した学生はミラノ工科大学から生体医工学の学士号(Bachelor’s in Biomedical Engineering)の取得資格を得られます。つまり、本プログラム修了者は医学と生体工学のダブルディグリー(二重学位)を取得可能です。
- 卒業後の進路: 臨床医として病院や診療所で勤務するほか、希望者はそのまま専門医研修(レジデンシー)に進む資格を得られます。また、生体医工学の知識を活かし医学研究者の道や、医療機器・製薬などヘルスケア産業分野の企業就職にも有利な背景を持ちます。さらに国際的な医学部卒業資格を持つため、国外の大学院で研究を深めることや、公衆衛生・医療政策に関わる機関での活躍など、進路の選択肢は広いとされています。
ビオメディコ大学(Campus Bio-Medico University of Rome)MedTechコース
- プログラムの概要と目的: ビオメディコ大学では、近年新たにMedTechコース(6年制、英語)を開設しました。このプログラムは伝統的な医学教育に工学的アプローチを融合したもので、将来の医師に高度な科学的基盤と応用生体医工学のスキルを身につけさせることを目的としています。人間中心の医療を重視する同大学の理念のもと、技術革新に対応できる医師(“医工学医”)を育成し、高品質な患者ケアと研究開発の双方に貢献することが目標です。
- カリキュラムの構成と特徴: 6年間の一貫課程で、医学部と工学部の共同運営による統合カリキュラムが組まれています。基礎医学科目と並行してバイオメディカルエンジニアリング関連の講義・実習が配置されており、解剖学や生理学などの医学科目と、プログラミングや生体信号解析、医用機器学といった工学科目を両方履修します。医学部附属病院での臨床実習に加え、工学系の実験実習や研究プロジェクトにも参加できる点が特徴です。公式に「幅広い医療テクノロジー分野の知識を提供する6年間の課程」と説明されており、工学系科目は大学内の工学部(1999年設立)との連携で行われます。在学中所定の条件を満たせば医学と生体医工学の二重学位取得も可能なカリキュラムになっています。
- 入試方式・試験科目・定員: 入試は大学独自実施です。国公立の共通試験(IMAT)ではなく、本学が定める筆記試験(英語・選択問題)で選抜されます。筆記では理系科目を中心に評価され、医学部一般入試と異なり数学や工学的素養も問われます。定員は年度によって調整されていますが、2025年度は欧州出身枠68名、非EU枠12名(計約80名)でした。入試は例年2月頃に実施され、成績上位者から定員枠内で合格となります。競争率は高く、医学・工学双方の強い基礎学力が求められます。
- 取得できる学位: 卒業時に医学博士(MD)の学位が授与されます。さらに、本コースの学生には並行して生体医工学分野の学位取得の機会が提供されています。実際、本学はMedTechコース新設と同時に生体医工学の学士課程(3年制、英語)も開設しており、MedTech在学生が追加の工学単位を履修することで医学と工学のダブルディグリーを取得できる制度になっています。したがって所定の要件を満たした卒業生は、MDに加えてキャンパス・バイオメディコ大学より生体医工学の学士号も取得可能です。
- 卒業後の進路: 臨床医として病院・診療所で働く資格を得る点は通常の医学部卒業生と同じですが、本プログラム出身者は医療イノベーションにも精通しているため、研究機関や大学で医学・工学横断研究に従事したり、医療機器メーカーや製薬企業など技術系産業で開発職に就いたりする道も開かれています。国際水準の英語医学教育を受けているため、卒業後は海外の大学院や研究所でさらなる研鑽を積むケースも想定されています。また、医療ITやデジタルヘルス分野で起業したり、医療行政・国際保健機関でテクノロジーと医療の架け橋となる専門人材として活躍することも期待されています.
マルケ工科大学(Marche Polytechnic University)医学・工学統合プログラム
- プログラムの概要と目的: マルケ工科大学(アンコーナ)では、「Medicine and Surgery – Medicine & Technology」コース(6年制、英語)を提供しています。急速な技術進歩とデジタル化に対応しうる医師を育成するため、医学の従来カリキュラムに工学および情報科学分野の知識を統合する革新的プログラムです。医療と工学の学際的連携により、「高度な医療技術を使いこなし、工学者と協働して新技術の創出にも関与できる医師」を目指すことが本コースの教育目標です。すなわち、最新のゲノミクス、バイオインフォマティクス、AI、遠隔医療などを活用して臨床や研究を行えるだけでなく、工学的発想で医療機器・治療法の開発にも寄与できる人材育成を掲げています。
- カリキュラムの構成と特徴: 6年間の統合カリキュラムで、医学部の科目と工学部の科目を計画的に交互履修します。1~3年次では医学の基礎科目と並行して生体工学系科目を学び、医学とバイオエンジニアリングの両分野の基盤を築きます。4~6年次では臨床実習や医療現場での研修に重点が置かれますが、初期3年間で培った工学的アプローチを現場で応用する形で学習が進みます。教育形態としては大学の医学部附属病院での臨床実習に加え、工学系のスキルラボやバイオエンジニアリング研究室での研修も取り入れています。本コース在籍中、通常の医学課程360単位に加えて30単位の工学科目を追加履修することが課されており、6年間で所定の追加単位を取得すれば生体医工学の学士号(3年制学位)を同大学から申請・取得できる仕組みです。したがって、修了時には医学博士と工学士の二つの学位取得が可能です。
- 入試方式・試験科目・定員: 本コースへの入学にはイタリア全国共通の英語医学部入試(IMAT)の受験が必要です。定員は合計約60~80名で、募集枠は年度によって調整されます。受験科目は標準的なIMATと同様、一般教養・論理問題、物理、化学、生物、数学で、医学と科学に関する基礎学力が問われます。IMATの成績上位者が本コースに配属され、入学後もイタリア人学生・留学生が混在した国際的な環境で学ぶことになります。なお、本プログラムは国立大学の公式課程であるため授業料は私立大学に比べ抑えられており、その点も含め志望者にとって魅力となっています。
- 取得できる学位: 本プログラムを修了すると医学博士を取得できます。また、在学中に追加履修した30単位を認定申請することで生体医工学の学士号(3年制学位)を取得することが可能です。つまり、本コース卒業生は医学と生体工学の二重学位を得られる仕組みです。両方の学位を取得するためには追加科目の単位取得および卒業論文執筆(医学部と工学部双方の指導教員による指導)が必要ですが、所定の要件を満たせば6年間で2つの学位を手にできます。
- 卒業後の進路: 一般の医学部卒業生同様に臨床医として病院勤務や専門医研修に進むことができます。その一方で、生体医工学の知識と技術を備えている強みから、医療機器・バイオテクノロジー企業における研究開発職や、医療ITベンチャーなどでの活躍も期待されます。さらに大学や研究所に進んで医学・工学の学際研究に従事したり、国際的な公衆衛生・医療政策分野でテクノロジーの専門知識を持つ医師として働く道も開かれています。公式にも卒業生の職域として、一次医療(開業医)から病院診療、研究職、国際機関、医療産業、保健行政まで幅広い選択肢が挙げられています。
パヴィア大学(University of Pavia)MEETプログラム
- プログラムの概要と目的: パヴィア大学では、ピサ大学などと連携して「Medicine Enhanced by Engineering Technologies (MEET)」プログラムを提供しています。これは医学部在籍学生向けの課外エクセレンス課程で、医療分野における工学技術の活用能力を磨くことを目的としています。具体的には、テレメディcine(遠隔医療)、ロボット手術、人工知能(AI)、ビッグデータ解析、3Dプリンティング、ウェアラブルセンサーなどに関する先端講義・実習が用意されており、将来これらの技術を駆使して患者ケアや研究開発を行える医師の育成を目指します。このプログラムに参加することで、通常の医学カリキュラムでは得られない医工学融合の最先端知識と視点を身につけることができます。
- カリキュラムの構成と特徴: MEETプログラムは医学部の3年次~6年次の4年間にわたり実施される選抜課程です。パヴィア大学、ピサ大学、サンタアンナ高等学校(ピサ)、パヴィア高等研究所(IUSS)の協力のもと運営されており、両大学の医学部生から選抜された約40名が共通のカリキュラムに参加します。この期間、通常の医学科目に加えて計48ECTS(大学単位)相当の工学・技術系科目を追加履修します。講義内容は医用人工知能やビッグデータ解析、医療機器開発、ヘルスケアシステム工学、医療倫理・医療管理学など多岐にわたり、医学と工学を橋渡しする学際テーマに重点が置かれます。教育手法としてProblem-Based Learningや実習型のセミナーが導入され、学生は最先端技術を実際に扱いながら学ぶ機会を得ます。なおMEETはプログラム修了要件として卒業論文(論文作成や研究実践)も課されており、医学と工学の知見を融合したテーマで論文執筆することで修了となります。
- 入試方式・試験科目・定員: MEET自体は在学途中から参加するプログラムのため、高校卒業段階で直接出願することはできません。まずパヴィア大学医学部に入学する必要がありますが、その際は他の国立大学医学部と同様に全国統一の医学部入試試験(イタリア語コースならば国内試験、英語コースならIMAT)の成績によって選抜されます。医学部入学後、2年次までの学業成績や適性を踏まえてMEET参加者選抜試験(書類審査・面接等)が行われ、選抜された約40名が3年次より本プログラムに正式参加します。応募要件として英語力も必要とされ、ピサ大学とパヴィア大学双方の学生を対象に毎年募集・選考が実施されます。定員は毎年約40名で、成績優秀かつ強い動機を持つ学生に限られる競争率の高いプログラムです。
- 取得できる学位: MEETプログラムはあくまで医学課程の強化プログラムであり、追加の学位が付与されるものではありません。参加学生は所定の追加科目48単位を履修し修了することで、「Medicine & Engineering Technologies修了証(Certificate)」等の認定を受ける形になります。したがって、パヴィア大学医学部を卒業すると医学博士(MD)の学位が授与されますが、工学の学士号そのものが別途取得できるわけではありません(医学課程修了時にMEETプログラム修了の証明が付記される形)点に注意が必要です。なお、他大学のような正式なダブルディグリーではありませんが、習得した単位は将来的に工学系大学院へ進学する際などに評価される可能性があります。
- 卒業後の進路: MEET修了生も基本的には他の医学部卒業生と同じ資格を持ち、医師として臨床の道(研修医として専門医を目指す等)に進みます。ただし、医療と工学の両面に通じている強みから、医学系・工学系の研究大学院に進学して医療AIやバイオメディカル分野の研究者になるケースや、医療テック企業で製品開発に携わるケースが想定されます。患者データ解析や医療機器開発の知識を備えた医師として、将来は高度先進医療の現場でリーダーシップを発揮したり、新しい医療技術の評価・導入に関わる専門職に就くことも考えられます。つまり、臨床医のキャリアにとどまらず、医学教育者・科学者や医療イノベーションの推進者として活躍できる点で特色があります。
まとめ
近年イタリアの複数大学で展開されている「医学×工学」の統合プログラムはいずれも、高度化・多様化が進む医療現場のニーズに対応しうる新しい形の医学教育です。医学部に在籍しながらバイオメディカルエンジニアリング分野の科目を体系的に学ぶことで、最先端医療技術を活用・開発できる“医工学医”を育成する取り組みが活発化しています。医師として患者ケアを行うだけでなく、AIやロボット手術といった先端技術を実際の医療現場や研究開発に応用し、新たなイノベーション創出にも寄与できる点が大きな特徴といえます。このように各大学が特色あるカリキュラムや連携体制を整えつつ、国際水準の医師養成を目指す取り組みは今後ますます注目されていくでしょう。
当校では、最新の大学情報はもちろん、合格者の実体験や現地病院の事情などを総合して、志望校選びや入試対策をサポートしています。無料の個別相談会も随時実施しております。「直接話を聞いてみたい」という方はお気軽にお申し込みください。複雑な出願手続きや受験準備を円滑に進めるためのアドバイスはもちろん、現地での生活サポートや卒後の進路に関する情報もお伝えいたします。
ホームページでは「イタリアの医学部に関する情報」や「当校のサービス内容」も掲載しているので、「もっとイタリアの医学部に対して知りたい」という方はぜひ一度ご覧ください。