はじめに:イタリアの英語医学部とは
近年、イタリアでは世界中の学生を受け入れるため英語で学位を取得できる医学部(Medicine and Surgery in English)が多数設置されています。イタリアの医学部は6年間一貫教育(Single-cycle Master)で、計360ECTS(単位)を修得すると医学博士号(MD)を取得できます。今回は、代表的な国公立大学2校(ローマ・サピエンツァ大学、ミラノ大学)私立大学2校(ミラノのサンラファエレ大学とローマのユニカミラス大学)を取り上げ、それぞれのカリキュラム構成や臨床実習の特色を比較・解説します。各大学の教育言語や評価方法、教授と学生の距離感、日本の医学部との違い、そして在学生の声も紹介します。ぜひ参考にしてみてください!
※本記事は2025年時点での情報を基に作成しています。詳しくは各大学の公式情報をご確認ください。
6年間のカリキュラム構成と基礎・臨床の配分
イタリアの医学部課程は、前期(基礎科学中心)と後期(臨床科目・実習中心)に大きく分かれます。どの大学も6年間・360ECTSである点は共通ですが、その中で基礎医学と臨床医学、そして実習の配分に多少の違いがあります。以下で各校のカリキュラム編成を見てみましょう。
ミラノ大学 (国公立)
6年12学期制で最初の2年間をプレクリニカル(基礎科学重視)、3年次以降を臨床期と位置付けています。1~2年次は先端研究所で授業が行われ、PBL(問題基盤型学習)やケースディスカッションも採用。3年次から病院実習を本格的に開始し、5~6年次には評価実習と呼ばれるローテーションを通じて臨床能力を高めます。卒業直前の学期は授業・試験を一切設けず、卒業研究(論文作成)に充てる点が特徴的です。
このように、いずれの大学も1~2年次は基礎医学中心、3年次以降に臨床科目・実習が本格化するという流れは共通していますが、履修トラック制の有無や研究期間の設け方など、大学ごとの独自性も見られます。
ローマ・サピエンツァ大学(国公立)
ローマで最も古い総合大学の医学部が提供する英語コース(Fプログラム)では、1~2年次に組織学・生化学など基礎教育を行い、3年次から臨床実習が本格化します。大学附属病院での研修が基本ですが、希望すれば1年次から見学参加ができるなど、学生の積極性に応じた柔軟な運用が行われています。4~5年次は専門分野の講義と実習をこなし、6年次は実習の比重を高めながら卒業試験(論文発表)に備えるという流れです。
サンラファエレ大学(私立・ミラノ)
国際MDプログラム(IMDP)と呼ばれる6年制課程を提供。1~2年次に基礎医学を修めつつ、3年次からサン・ラッファエレ病院での臨床ローテーションがスタートします。最終学年では授業・試験のないブロックを設けて、卒業研究(Additional project)に専念できる配慮がなされています。さらに、学生の志向に合わせた4つの履修トラックがあり、例えば「Medicine and Surgery Track」「Global Health Track」など、選抜制で専門領域を深く学ぶことができます。
ユニカミラス大学(私立・ローマ)
1~3年次は解剖学・生理学など基礎医学科目が中心で、臨床医学入門として1年次後期に「臨床実習(Clinical Practice)」が配置されています。4年次以降は系統別の臨床科目と本格的な病院実習が始まり、5年次も各学期それぞれ実習が割り当てられます。6年次は授業科目を最小限に抑え、実習と卒業論文が中心となる流れです。前半の基礎科目期間にも、解剖学のビデオ教材・シミュレーターを用いた演習やワークショップなどが初年次から行われ、段階的に臨床準備が進められています。
病院実習と地域医療:提携病院・指導体制
臨床実習(Clinical rotations / Clerkship)はイタリア医学教育の後半で非常に重要な位置を占めます。大学附属病院や提携医療機関で学生を受け入れ、指導医の下で診療参加型実習が行われます。
ミラノ大学
ニグアルダ病院、ポリクリニコ病院、ルイージ・サッコ病院などミラノ市内の主要公立病院をはじめ、専門センターや私立病院まで多数の施設と提携。3年次から診療科別ローテーションを行い、5~6年次には15単位相当の評価実習が設定されます。ここでは客観的な臨床技能評価を受けながら経験を積むことが可能。選択実習として夏季などに追加のインターンシップを行う学生も多いようです。
私立大学は自前の高度病院ネットワークを持ち、国立大学は複数の公立病院を回るローテーションで総合力を身につけるという違いが浮かび上がります。地域医療に関しては明確には打ち出されていない大学もありますが、イタリアでは一次医療や公衆衛生を重要視するため、何らかの形で地域での研修機会が設けられていることが多いです。
ローマ・サピエンツァ大学
ポリクリニコ・ウンベルト1世病院を中心に実習。3年次から本格的に臨床ローテーションが始まりますが、希望すれば1年次から見学できる柔軟性があります。教授や上級医は多忙な場合もありますが、学生の自主性次第で充実した指導が受けられるのが国立大学の特徴。地域医療は選択科目やインターンシップで経験するケースもあります。
サンラファエレ大学
サンラファエレ病院(IRCCS)という高度先進医療研究病院を擁し、3年次以降の学生はここでローテーションを行います。同病院は先端医療と研究の拠点で、心臓病センターなど専門施設も充実。グループ傘下の病院にも実習の場を広げ、症例や分野を多角的に学べる体制です。研究所との連携により、臨床と基礎研究を並行して経験する学生もいます。
ユニカミラス大学
自前の大学病院は持たず、ローマ近郊の公的・私的医療機関と広範な提携を結んでいます。主要公立病院に加えて多くの私立病院でも研修できるため、実習先の選択肢が非常に豊富。4年次のWhite Coat Ceremonyを皮切りに本格的な病院実習が始まり、地域医療にも貢献できるよう実践力を重視するカリキュラムが特徴です。
授業言語とイタリア語習得サポート
いずれのプログラムも講義・試験は英語で行われますが、臨床現場ではイタリア語が不可欠です。そのため、各大学とも留学生向けにイタリア語コースやサポートを用意しています。
ミラノ大学では臨床実習開始までにCEFRレベルB2のイタリア語力を身につけることを必須とし、サンラファエレ大学・ユニカミラス大学大学はB1を求めるなど、具体的な到達目標を設定している例もあります。ただしほとんどの大学は1~2年次にイタリア語クラスを提供しており、病院実習開始までに日常・医療会話レベルをマスターさせる方針です。実際、キャンパス生活やアルバイト、現地での日常生活を通じて徐々にイタリア語に慣れる学生が多いです。
このように「授業は英語、臨床はイタリア語」という使い分けが基本スタイル。卒業時には英語・イタリア語双方のコミュニケーション力を持つ医師となり得るため、国際キャリアの幅が広がるメリットがあります。
教授陣との距離感・教育手法(チュートリアル・PBLなど)
イタリアの英語医学部では、従来型の大講義だけでなく、インタラクティブな指導を取り入れる動きが進んでいます。ミラノ大学はPBL(問題基盤型学習)を公式に採用し、少人数グループでケースディスカッションやロールプレイを行います。サンラッファエレ大学では研究指向の学生に対してラボとの連携が手厚く、個々の関心に合わせてサポートを受けられる仕組みがあります。
チューター制度やアカデミック・サポートが整備されている大学も多く、講義や実習中に生じた疑問や苦手分野を教授・上級生がフォローする文化があります。特に留学生が多い英語コースでは、多言語・多文化背景の学生が共に学ぶため、互いに支え合う風土が根付きやすいと言われています。
国立大学でも定員が少ない英語コースならではの近さがあり、サピエンツァ大学やミラノ大学でも教授や指導医に気軽に相談できる雰囲気があります。ただし、教授陣は研究や臨床で多忙なため、学生の積極性が大きくものを言うようです。
試験・評価方法:筆記試験、口頭試問、OSCE、卒業論文など
イタリアの大学には特有の試験制度や評価基準があります。たとえばほとんどの科目で、筆記試験(CBTなど)に合格すると口頭試問(オーラル試験)が課される、二段階方式が一般的です。口頭試問では学生が教授と対面し、知識・理解度を深く問われます。合格や成績がその場で告げられ、再試験のチャンスが複数回存在するなど、日本の大学にはない柔軟性も特徴です。
臨床技能の評価としてはOSCE(客観的構造化臨床試験)に類する実習評価が取り入れられ始めていますが、全国共通ではなく、大学ごとに実施形態が異なります。最終的に6年次で行われる卒業論文(論文の執筆と口頭発表)は全員必修で、ここで研究的視点やプレゼン力を問われることになります。
また2020年以降は、卒業試験が国家試験を兼ねる制度に移行しつつあり、大学内での評価(卒業論文と臨床実習評価など)に合格すると、そのまま医師免許を得られる仕組みが整備されています。これは日本のように卒業後に全国統一の国家試験を受ける仕組みとは大きく異なる点です。
日本の医学部との違い
イタリアと日本の医学部を比較すると、以下のような相違点が目立ちます。
- 臨床実習の開始時期
イタリアでは3・4年次から病院ローテーションが始まり、早い段階から患者対応を経験します。日本は5年次以降に本格的なクリニカルクラークシップが組まれることが多く、タイミングにズレがあります。 - 国家試験と卒業要件
イタリアは卒業試験=国家試験として、論文発表や実習評価で資格付与される仕組みです。日本は卒業後に筆記中心の医師国家試験を受けなければなりません。 - 卒業論文の必修
イタリアでは全員が論文を書き、口頭審査を通ることが卒業要件です。日本は研究コース以外では卒論がない大学が多いです。 - 試験形態(口頭試問)
イタリアでは各科目の評価に口頭試問が入ることが多く、教授との対話を通じて理解度を測ります。日本は筆記試験やレポートが中心で、口頭試験はあまり一般的ではありません。 - 自律性と国際性
イタリア英語コースには多国籍の学生が集い、少人数かつ自主性を重視する教育が行われます。日本の医学部は学年規模が大きく画一的な傾向が強いですが、近年は一部でPBLや国際プログラムの導入が進んでいます。
全体として、イタリアの医学教育は研究活動やコミュニケーション能力を重視し、学習プロセスの自律性を高めつつ評価では実習や論文発表を重んじるスタイルが目立ちます。日本の「管理型」で厳格な進級基準とは異なる文化もあり、どちらが良い悪いではなく、双方から学べる部分があるといえます。
まとめ
イタリアの英語医学部は、いずれも基礎から臨床まで6年間を通じた統合カリキュラムを採用しています。早期の臨床体験、英語とイタリア語を併用する教育、口頭試問や卒業論文・最終試験による資格付与など、日本の医学部とは異なる特色が多数見られます。教授陣との距離感も比較的近く、少人数制の恩恵を活かしたチュートリアルやPBLを実践する大学が多い点も大きな違いです。
国際的にも評価の高いイタリアの大学病院や研究施設で研鑽を積み、卒業時にはEU圏や国際舞台で通用する医師資格を取得できるのが魅力です。また、日本人留学生が現地で多国籍の仲間と切磋琢磨しながら医学を学ぶ環境は、将来のキャリアにおいて大きな強みになるはずです。もちろん言語や試験制度の違いなどハードルはありますが、それを乗り越えることで得られる体験はかけがえのないものとなるでしょう。
イタリアの英語医学部での6年間を通じて得られる実践力・研究力・コミュニケーションスキルは、グローバル社会で活躍できる医師を目指すうえで大きなアドバンテージとなります。日本の医学部と比較検討しつつ、それぞれの特徴を知り、自分に合った学びのスタイルを見つけることが大切です。国境を越えた医療者ネットワークに飛び込みたいと考える方に、イタリアの英語医学部は有力な選択肢と言えるでしょう。
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